あらすじと人物

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 目覚めると、そこは屋外階段の踊り場だった。  それまでの記憶を思い出そうと頭をひねったが、私にはそれが思い当らなかった。なぜかここにいて、びゅうびゅうと強い風に当てられている。  鉄骨の手すりが腐りかけているのが視界に入る。そのままシフトしていき、隣のビルの階数を数えていく。一つの階につき高さ二メートルと概算するとここが地上約四十五メートルほどだとわかる。それがわかって、何かが紐解けそうだったが、少しするとわからなくなった。  もう二、三階分ほど上ると屋上につく。仕方がないのでとりあえず上を目指すことにする。恐らくはそういうために、わざわざ屋外階段の途中にいたのだろうと考えた。  屋上には誰もいなかった。二十数階といえば高層ビルと言ってもいいだろう。当然、そんなところに人影はなかった。  到着してみてさらに風の強さを感じる。そういえば今朝のニュースで強風注意と謳っていた気がする。だんだんといろいろなことを思い出し始めている、その兆しは感じることが出来た。  スマホに着信があった。それを取りながら、今来たばかりの階段を降り始める。  相手は母親だった。ずいぶん久しぶりに声を聴いた気がする。どうやら数十分前に私から電話を掛けたらしかったが、何せ記憶がうすぼんやりとしているので掛けた理由に思い当らなかった。元気そうでよかった、と母は言った。  通話を終えてから、なんとなく恋人に電話を掛けようと思って、やめた。  そういえば昨日ひどい喧嘩をした。思いつく限りの罵詈雑言を浴びせられた。気分がだいぶ落ち込んで、思い出さなければよかったと思ったが、遅かった。  また風が吹いた。手すりに触れると、ちょうど腐った場所だ。  それで、思い出した。  地上四十五メートルとは、飛び降り時の一つの指標である。  私はこの強風で、事故と思われるような自殺をしようと思っていたのだった。  否、正確には、もう「した」のだ。  ゆっくりと息を整えてから、手すりを超える。落下は一瞬だったが、その一瞬で昔聞いた話を思い出した。  人は死ぬと、死の瞬間を繰り返す、と。  目覚めると、そこは屋外階段の踊り場だった。 私…二十八。仕事に恋人に、何もうまくいかず死ぬことにした。 母…五十二。地方在住。「私」とは疎遠。 恋人…三十。年齢によるストレスで「私」に強く当たる。
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