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 ついこの間立ち上がったばかりの三角の両耳は、勢いが余ったように上に伸び続けて、そのため今では彼の顔立ちを、全体としてなんだかシバイヌらしくないものに、ちょっと洋犬のシェパードめいたものに見せていた。なぜか耳の成長ばかり急ぎ過ぎて、顔のほかの部分の成長が追い付いていないのだった。  とはいえやはり鼻づらも、また胴体も、四本の脚も、カーブを描くしっぽも――まあ要するに身体じゅうのことごとくだが――このごろとみにひょろりと細長くなってきた。  まだまだ子犬のうちだけれども、その若いしなやかな身体に秘めた体力ときたら、実にほぼ無限だった。  見よ、今しもモモタロは、彼の貴い自由の前に立ちふさがる、いまいましい敵と戦っているところである。  彼は部屋の隅に置かれた、スチール製の小さなケージに閉じ込められている。  このケージは一か月と少し前、彼がほんのドッジボールていどの、生後二か月の大きさでこの家にもらわれてくるにあたって、彼の新しい飼い主となった二人の若い男女が用意した、まだぴかぴかの代物だ。  中にはいつも、新鮮な水はもちろん、噛むおもちゃの二、三個、かなり寝心地のいい敷物も用意されている。しかし、そもそもが囚われの身にとって、そんなものたちがなんだというのだ? 馬鹿にしちゃあいけません。モモタロ様が激しく求めてやまないものは、四六時中気ままにこの部屋のあちこちを、さらには廊下と、隣の部屋と、キッチンを駆け回って遊び回る自由なのだ!     
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