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目覚めるとそこは屋外階段の踊り場だった。
眼下には煌めくイルミネーション。
高平直斗(23)は、寒さに体を丸めながらコートのポケットから着信音のするスマホを取り出した。
「高平、どんだけ休憩取ってんだ! クリスマスなめんな!」
直斗が厨房に入ると、そこは喧噪を極めていた。
先輩シェフの小川泰介(28)から怒鳴られ、直斗はメイン料理を持ってホールに出る。
今日は満席。人手不足は明らかで、シェフの直斗までも配膳に駆り出される。
ふと隣のテーブルを見ると、一人で食事をしている女性がいた。玉木莉穂(21)。カップルが多い中、クリスマスに一人で訪れている莉穂は少し場違いにも見える。
一瞬、莉穂と目が合った直斗が会釈をすると、莉穂も恥ずかしそうに微笑み返した。
時間を忘れるほどの慌しさがようやく落ち着いたころ、直斗がホールの様子を覗くと、莉穂が店を出るところだった。
直斗は莉穂の座っていた席に紙袋が置き忘れられていることに気づく。
紙袋を手に取りドアを開けて追いかける直斗。
「お客さま! 紙袋お忘れではありませんか」
足を止めた莉穂が振り向く。莉穂は嬉しさが堪えきれないような笑顔で言った。
「それ、あなたに!」
「え?」
「あなたにお礼がしたくて」
莉穂は去年のクリスマスに直斗の働くレストランで彼氏に振られたことを話した。
直斗は思い出した。
相手はいかつくて店員にも態度でかい男で、食事に文句言うわ周りのムードぶち壊すわで最悪だった。
「あんな男、別れて正解だと思いますよ」
今にも泣きだしそうな莉穂に直斗はそう言ったのだった。
「俺、失礼なことを……」
「いえ、とても嬉しかったです。おかげで吹っ切れた」
莉穂は直斗に感謝を伝えた。
「忙しいところありがとうございます! また来ます」
去って行く莉穂の背中を見送った直斗は紙袋を開ける。
中には暖かそうなマフラーとクリスマスカードが入っていた。
『今日も一生懸命働くあなたへ
お仕事お疲れさまです。メリークリスマス』
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