張り巡らされた罠

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都心の高層ビル群の一室。 ざわざわと騒がしい朝のオフィスには、様々な香水や化粧品の匂いが出勤時間のピークと共に広がっていく。 俺、里中大介は29歳にして、大手生命保険会社の営業所長を任されている。 「それでは本日の朝礼を行います。 まず、昨日の挙積から。鈴木さん2件の新規契約おめでとうございまーす!」 名前を呼ばれた職員が立って一礼し、同僚が拍手をする。 毎日の習慣で朝礼の最初に行う、昨日分の営業成果を全職員の前で次から次へと大声で読み上げる。 一人一人が血の滲むような営業努力を重ね、勝ち取った結果。頑張った労いを込めて張りのある声を意識し伝えるが、そのテンションの高さに反して全く心は冴えない。 年度末が迫ってきてるというのに、今年度の営業所に課せられたノルマ達成までかなり数字の開きがあるのだ。 人数の規模は少ない営業所だが、俺はここで二年の間に結果を出せば、更に上のポストに行けると、同じ学閥の上司が気合も充分に推してくれている。 だが、達成出来ず今年度が終わってしまえば、ここまで順調にきた出世街道から外れ、降格も簡単に有り得る甘くない世界。 こんなところで躓いてる場合ではないのに。
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