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親父のケータイに電話をし、その日のうちに会うことになった。
家に来るかと言われたが、母さんと二人で過ごした思い出の場所に他人がいるのかと思えば足は向かない。
結局、実家近くのファミレスで会うことに決まった。
……が。
「随分久しぶりだな、大介」
「あぁ…」
数年ぶりに会ってみて、昔と比べ一回り以上痩せて小さくなった親父を見て俺は、罰って本当に当たるんだなと思う。
あれほど大きくて威厳があった親父が今は何だか哀れに見える。
席につき、親父が近況やら病気の事を話して俺は適当に相槌を返す。
そんな上辺だけの会話が二十分位続いた頃、親父が真剣な顔で聞いてきた。
「結婚はどうなんだ?」
「俺はするつもりないよ。子供もいらない」
「…そうか」
重苦しい空気がのしかかった。
このタイミングで俺は今日一番言いたかった事を口にすることにする。
「親父、俺は今でも許せないし、あんたの妻も認めない。でも…」
一呼吸おいて、親父の目をしっかりと見る。
「そんな親でも…俺の親だから、長生きしてもらいたいと思うよ。治療の成功祈ってる」
それだけを言って席を立つ。
「大介…!」
呼び止められて振り返る。
「お前と…母さんを…裏切って悪かった…すまない…」
絞り出すような声で頭を下げながら謝罪の言葉を。
何とも言えない気持ちになり、
「じゃあ、帰るから」
声をかけ、出口に向かって歩き出す。
心が痛い。
親父にもそれなりの葛藤があったのだろうと、少しは分かってはいるのだ。
だが認められない自分。
今のまま過去に捕らわれ止まっていては駄目だけれど、簡単に許せるものでもない。
少しずつ。
少しずつでも前向きに生きられるようになりたい。
今を生きているのは自分であって他の誰でもないのだから。
そう思いドアに手をかける。
無性に香坂さんに会いたくなった。
早く帰ろう。
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