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《side 香坂》
弟の学と仕事の打ち合わせが長引き、帰りが遅くなってしまった。
他に残っていた者たちは、タクシーチケットを使って帰る手筈になっていたので、俺は学にねだられていた鉄板焼きのお店に連れて行くことにする。
「しかし、いつも店のリクエストに遠慮がないな」
「いいじゃん、崇兄ちゃんと違って兄貴は家庭無いんだし」
「それはそうだけどな」
歳の離れた弟にはつい甘くなってしまう自覚はあるが、こればかりは可愛いのだからしょうがない。
表通りでタクシーを拾うため連れ立って歩けば、遠目に満開に咲く桜の木の下で男が一人座り込んでいるのが見える。
酔っ払いか?
23時を過ぎているが人通りはまだある。
近づくに連れ、何やらスマホで写真を撮って、挙げ句の果てには寝転んでしまった。
一連の様子から目が離せない。
「兄貴?」
学の呼びかけも耳に入らず、俺は何かに引き寄せられるように男へと一歩一歩近づく。
側にしゃがみ込み、
「どうしました?」
声をかければ、寝転んでいた男はガバっと起き上がった。
清潔感のある今時の男だ。その瞬間、
「俺とお花見しませんか?」
ニコニコと人懐っこい笑みを浮かべ、俺の両腕をガシっと握りしめた。
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