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だましあい
「あした、バイト休みやろ。一緒にライブ行かへん?」
「行かん」
「またまたイケズ言いな。行こうや」
「きょーみない、ガキのバンド遊びなんか」
「でもこないだのライブの後、芸能事務所の人から声かけられてんて」
「なんでお前がそんなこと知ってんねん?」
「えー…、いやなんか、追っかけの子がそう言うてたから」
視線が泳ぐから嘘やてすぐわかる。
どうせライブ後の打ち上げとやらに参加して、ボーカルの赤い髪の男にお持ち帰りされたんやろ?
「へえ、ほなデビューしてチャート1位取ったら見るわ」
「ほんまイケズやな」
拗ねた顔して唇とがらして、そんな顔が違和感ない男子高校生てどうやねん。
顔で言うたら、そんなバンドなんかよりもお前のほうがアイドルになれる確率のほうが断然高い。なんてことは絶対言うたりせんけどな。
着替えを終えて、ロッカールームを出ようとする俺を、まだ制服姿のお前はにっこりと天使の笑顔で見送る。
「ほなまたねー」
やわらかい余韻の「ねー」を残してドアが閉まる。
どん、と鈍い音がして目を開けた。
天井が見えて、ここが自分の部屋だと気づいた。
夢見てたんか…。
ベッドから身を起こすと、床にタオルケットにくるまった男がいる。
いや、パッと見には男とは思わんかもしれん華奢な体にきれいな顔やけど。
そやけどこいつは見た目通りの天使やない、なかなかの肉食ビッチや。
さっきの音はこいつが落ちた音らしい。
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