prologue

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型は自由を禁じて作り上げなければならない。自我を出してしまえば綺麗どころかバランスの悪い立ち姿に見えるものだ。 それを褒められたことは(やしろ)にとっても嬉しい事で、しかも自由を愛していると言っても過言ではない見目の(ゆずりは)に言われ、思わず笑ってしまった。 「初めて言われたよ、さんきゅ」 社はそう答えて、型を作りぴしりと一直線上に立った。 弓は持たず型だけで一連の流れを辿って腰に手を置く。 「だから、寒くねぇのかよ」 再びの問に流石に社は口篭った。 「...我慢できる」 「はぁー、やっぱ我慢かよ、ったく風邪ひくぞ」 そう言うと、ドスドスと足音が響き社の背中から身体に毛布が掛けられた。 「おい!」 慌てて外そうと思ったものの、杠の手が両肩に置かれていて叶わない。 「助けてくれてサンキューな、アンタは少し温まりな」 そう言って、社の肩をポンと叩き、ストーブのそばに干していた制服を着込むと杠は、部屋を出ていった。 肩にかけられた毛布を溜息を付きながら肌から手へ引き、少しの温もりは一瞬で去っていく中で毛布を綺麗に畳む。 置いてあった場所に戻して、時計を見るともう少しで学校が始まる時間を指していたので、着替えを終わらせて社も道場を出た。 教室に入ると、社の周りには人がワイワイと集まって来る。 「会長、今日は雪ヤバいから絶対途中下校だ!な!?」 と、帰りたいを前面に出す同級生にどうかな?と返して授業の準備を始める。 机上に勉強道具を並べ、窓際の席のため先生が来るまでは外を眺めていることが多い社はいつもの如く窓の外へ視線を向ければ... 「っ!」 朝、道場にいた杠が既に登校の終わった人気のない校門前で女子と抱き合ってる場面を見てしまい目を背けた。 だが、隣の窓がパン!と勢い良く開かれる。 窓を開ければせっかく暖かい室内の気温が一気に奪われる。 「こらー!イチャつくなよ!銀っ」 ヤンチャな部類の男子が窓を開けて声高らかにブーイングを送り出し、 それに気付いた杠が顔の位置を変えずに手を上げてこちらに降ると、女がそれを良しとしなかったのか顔を固定してキスをする。 それを見た数人が窓を開けて口笛や野次を飛ばす中、先生が入って来て静寂を促した。 従う生徒をよそに社は既にそちらを見ては居なかった。 (あいつはやっぱり特殊な人間だ) そう結果付けて、ノートを纏め出した。
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