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朝練に来る人は殆ど無く、学校が始まるまでは精神統一をしている彼、社一の聖域なのだ。
そこにひとつの塊がゴロゴロと転がる。
「うるせぇ」
神聖な道場に声が響く。
低く、響く声は社の声だ。
眉間に深く皺を寄せて、吐き捨てる様に言えばゴロゴロと転がる物体が停止した。
「だってよぉ、さみぃんだもんよ」
髪は上が金髪で長く耳元は刈り上がったツーブロックの髪型。
耳にはピアス2つが揃って並び、赤と黒の光を左側だけに鈍く光らせていた。
その男を見て社は溜息を落とした。
「ストーブの前だろうが」
吐き捨てるように言えば、男は唇を尖らせた。
「お前、そんな格好で寒くねぇの?」
と、制服の上を脱いで毛布に包まりガタガタと揺れる男が喚いている。
「気合が足りないんだよお前は」
上下弓道の道着を着背筋をぴしりと伸ばした男が、フンと鼻で笑う。
「あー会長さんよ、アンタの名前なんだっけ?俺と似てたよな?」
と、木で作られた名札をじーっと見ているがお前の方が呼び名は難しいだろうと言いたげに苦笑う。
「お前、杠だろ?」
社は、知っていたかのように名を告げた。
「ん?あー珍しいらしいよな、呼ぶなら銀でいいぞ?」
と、軽く答えると社はちらりと銀を見て視線を定位置へと戻した。
「わかった、杠さっさと温まったら出てけ」
告げた事と真逆の事を言われ舌打ちを響かせると、社も眉間にシワを刻んだ。
「生徒会長で、弓道部長で、澄ましたイケメンの一くんは、俺みたいな落ちこぼれ相手に出来ねぇって事かよ」
発言は強気であるが、ストーブの前から離れられずガタガタと震えているのは変わらない。
「なんだその、クソみたいな被害妄想は、だからすぐに喧嘩になるんだろ」
視線を動かさずに、社が答える。
「んっと、あー言えばこー言うのな、めんどくせぇ」
と、温まりながら文句を口にしたが、社は言葉を返さなかった。
それから少しの沈黙後、立ち上がると再び弓の型を取るよに社は両足を開いた。
杠は、その姿を黙って見入っていた。
「はぁ...」
と、口から吐き出す息は白く、凛とした姿に魅了されるように凝視する杠の視線を知っていながら無視して、型を整えて行く。
「お前、綺麗だな」
その言葉があまりにの場に不釣り合いで、社がふはっと、笑った。
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