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この広い世界、幾億の人がいる中でこうやって知り合い、離れて行く。銀にはそれを痛いほど理解することが出来たのは、遠い過去に離れていく人を見た事があるから。
そんな空想を広げていたのだが、正面から受ける視線に鬱陶しさを感じて社を睨み付けた。
「んで、何が言いたいんだよ」
少し身を乗り出した銀が、社を睨むように見ても社は動じない。
他の奴らなら、身を引くか、引き攣るかで表情をわかりやすく自分に伝えてくれる人とは〝異種〟な人である。
「退学は、ダメだろ」
銀の睨みにも動じず、あまり表情を変えない社がポツリと履いた言葉に、まさに面を食らうという言葉がぴったりなとぼけ顔を社に返してしまった。
「は?」
一瞬なんの事かと、頭を巡らせて思い至ったのは教室での騒ぎ。
銀が退学にでもすれと発言した言葉しか頭に浮かばなかった様で、バツが悪そうに口を開いた。
「退学は...自主じゃねぇと、そう簡単にならねぇし」
まるで、自分のこの先を気にかけている様な言葉に戸惑いが隠せずにそっぽを向いて肘から伸びた手に顎を乗せ、視線を遠ざけた。
なぜこの男が自分の心配をしてるのかが全く掴めず理由すら浮かばなかったのだ。
「学校の規定ではあるし実際退学者もいる中でそれは、ダメだ」
正論をぶつけられた銀がまっすぐ座っていた椅子から横に足を投げ出し、生徒会長の机を見ながら「てめぇに関係ないだろ」とボソリと呟いた。
そして訪れる静寂は、なんとも心地の悪いもので、銀が席を立とうとした時だった。
「髪型も、ピアスも、規定では禁止されてるのをあえてするのは、かまって欲しいからと聞いた事がある。お前もなのか?」
それだけ聞けばただのわがまま坊やの戯れ言みたいではないかと、銀の中で答えを弾き出すと苛立ちが強くなる。
求めてるのはこんなんじゃないのだ。
「あっそ、わざわざこんな所に連れて来たから、説教でもあるのかと思えば、ただの質問ならもう帰る」
銀が立ち上がり、部屋を出ようとした時に社が銀の腕を掴み、思ったよりも強く握られる痛みに眉間にシワを刻んだ。
「てめぇ、俺に喧嘩売ってんのかよ!」
「いや、喧嘩したいんじゃなく話したいだけだ」
「話なんか俺にはねぇよ、てめぇ、なまらウザイ!!」
銀が社の胸元を握り、噛み付く勢いで顔を寄せて睨んだ。
だが、大抵の人であればここまですれば何かしらの反応を見せるのに、社は微動だにせずに銀を見ていた。
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