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視線に苛立ち拳を握り上げて更に社を脅す様に低い声で、銀が社に迫る。
「なんとか言えや!」
握り上げてある手に、そっと手を乗せてふっと笑ってからとぼけた答えが帰って来た。
「...痛いのは嫌だな」
そう伝え、ポンポンと手を叩くと、驚いた表情を見せた。
「っ!?はあぁ!?」
話が噛み合わないと思った途端、思わず手を離してしまった銀は、はははと短く笑って足で丸椅子を出してそこへ座った。
「お前、なに?度胸座ってんのな」
「別に座ってない...」
そう言って出入口近くに腰を下ろした。
すぐに銀が逃げられない様にとの思慮なのか、ただその場所に座ったのかは、計り知れなかったが銀は今までの険しい表情を解いたのだ。
「で、アンタは俺をどうしたいんだよ、先生に頼まれたから、俺を監視するって感じでもねぇべ」
上半身をだるそに長机にもたれ掛けると、頭頂部の髪をガシガシと掻きながら聞いてくる顔は明らかに、違い社がフッと短く笑った。
「あぁ、別に監視するつもりもないし、俺にはそんな時間ないからな、お前も知ってるだろ?俺にはやることがあるんだよ。
でも、お前は記憶にないかも知れないけど、助けられたことがあってな…その恩返しを勝手にしてるだけだ」
その言葉に首を傾げた銀が問う。
「助けた?いつ?」
全く思い当たらんという表情で、色々思い出してるのだろうが、思い浮かばなかったのだろう。
「お前は、知らん...俺が勝手にお前のしたことに感謝してて、勝手にお前を退学にしたくないと思ったから声を掛けた。
先生も、別に関係ない事だから、毛を逆立てるな」
と、滅多に表情を緩めない男が笑い、その手を銀の頭に載せるとガシガシと撫でる。
「っ、おま!やめろって」
じたばたと、手を振りほどくと社が自分の手をじっと見てから、銀の前髪をひと房引いた。
「...お前、毛が痛んでるだろ、ギシギシしてるぞ?」
するりと、滑り落ちない事を言えば銀はその手を叩き落とす。
「こまけぇな!女かよ!」
そう言いながら髪をわしゃわしゃと無造作に作り替えていく。
「...器用だな」
いつの間に、髪の話にすげ変わったのだ?
と、銀はまた笑った。
「お前の髪柔らかそうだしな、てか、その助けたのはなにか教えろよ!」
と、気になっている事を口にしたのと同時に学校のチャイムが響いた。
「部活...じゃぁな」
「おっ、おい!自由かよ!」
ツッコミは、既に出て行った社には届かなかった。
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