prologue

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社が部室に入ると、きゃぁきゃぁと色めき立つが、誰も社に近寄る人はいなかった。 周りに人は居るのに、どうも近寄り難い存在で、顔は整った男。 女子が騒がない方が逆に不思議ではあるが、性格に難がある。 話をしても、ズバリと痛い所を突いてしまうため、女子の間では遠くから眺めておくだけでいいとの言葉も多く囁かれる。 「今日は3番で回してくれ」 部員は10名ほどで、男子は3人しか所属していなく、道場も的が2つしかない小さな道場であるから、打ち込みの順番が決められていた。 近的と遠的の2種類の距離があり、1人2手(※1手で矢が2本)の4回しか矢が放てない。 的は遠的用の距離で、近的用には板を用意する事で距離を補っていた。 「部長、私の順番分かりません」 女子が紙を持って来たが、それぞれ個人に割り当てた番号があってその番号を3番の羅列から選んで見ればすぐにわかる。 中学生でも、解るであろう一覧がわからないと訴えてくる女がいた。 「...お前、いつもわからんって言ってるけど、わかっててなぜ聞きに来る?」 「え?好きだから話したいんです」 何度か告白されて、振り続けてるのは部内でも有名な話で至って本人もそれを隠すつもりは無いらしくサラリと告げる。 「...はぁ、何度もそういう思いは邪魔だと伝えてるはずだか?」 「聞いてても、止まらないんで!」 と、随分とスッキリした答えが帰って来て社もほとほと困り果てていた。 気持ちを無下にするつもりは無いが社はこの人に思いを抱くことは無いと確証していたから、無理だと伝えているのを、尽く無視して来るのだ。 「俺は頭悪すぎる女は好きになれない、それくらい理解できないなら一生かかっても俺はアンタに惚れないだろうな」 そう、返してやっとしょんぼりと肩を落として去って行くのだ。 ひとつ深いため息を落として、他の生徒の指導に当たる顧問へ話し掛けようと社が振り向けば戸口に立っている男に視線が行く。 それでなくても目立つ髪型だから、間違いなく、さっきまで話していた男だと社は理解しメンバー表等が書かれたノートを顧問に渡して戸口へと向かった。 「なんだ、加入希望か?」 3年にそれはないのはわかっているはずなのでからかうための言葉と取れた。 「帰り...話でもしねぇ?」 視線は合わせることなくだるそうに戸口に背中を預けてポケットに手を押し込んだままで聞けば、社がフッと笑った。
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