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社は弓の大きな包みを出入口の所へと立て掛けて誘われるまま室内へと進んだ。
ベットの上に社が腰を掛けると、銀は机に付属している椅子を引いて腰掛けた。
「で、話って?」
社が問えば、銀は壁に掛けられた時計を見て既に7時30分を経過している事を訴える様に社に視線を戻した。
その動きで何が言いたいのかを理解したのだろう、荷物を肩から下ろしベットの下に置いて口を開いた。
「いや、時間は気にしなくていい、帰りが遅くなるのは伝えた」
へぇ、と短く返事をしてマグカップを1つと紙コップをひとつ出すと銀はインスタントコーヒーを机で測って入れる。
電気ケトルが置いてありそれにペットボトルの水を注いでスイッチを押した。
「へぇ、自分で作るんだ?」
「自販機は安いって言っても、高いからな...コーヒーとお茶しかねぇけど」
そう言って、半分程に減った瓶を左右に振って見せた。
そんな会話中に沸騰したのだろう。
機械がカチリと音を鳴らしたので、銀はお湯を注いでそのまま社へとマグカップを渡した。
「俺がマグ?」
「ん?お前、手はやけど出来ないだろ?」
その言葉に社は1度きょとんとしてから、込み上げてくる笑いをそのまま、銀へと見せる様に笑った。
「ふはっ、ははっ、お前が俺の手の心配かよ」
くくくとまだ笑う社に、銀は背中にあったクッションを投げ付けた。
「おっと、危ねぇな...ぶくくっ...」
社はコーヒーを高い位置にずらしてもう片方の手でクッションを掴んだ。
目の前には毛を逆立てた猫がいるかのように思えたのだろう。
笑いを止めることは出来なかった。
「なんだよ、俺だって人の心はあるんだよ!心配位するだろ!あんたはそれでなくても有名なんだからな!」
と、言われて社の笑いが止まった。
笑顔が一瞬で消え去る様は見ていた銀にもありありと伝わる。
「お前もか...残念だな」
大きな溜息に、銀も同じようなため息を吐いた。
「何がだよ、有名なのは間違いないだろうが。だからってお前が全て正しいモンでもないがな」
と、偉そうに伝えれば、ふはっと笑いを零して確かになと社が答えた。
「話ってか、アレだ...アンタとなら俺まともに話せる気がしたから声掛けた」
銀にしては随分と珍しい言葉を社にぶつければ、社もそれに同意だと言わんばかりに頷いた。
「お前いつもトゲトゲしてるからな...どっかのサボテンかって言いたかった」
そう言って社はまた、くくくと笑う。
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