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prologue
しんしんと降り積もる雪に、一筋の足跡があった。
まだ除雪もされていない30センチの積雪を漕いで進んだ人がいる事を、真っ更な雪の上の足跡が物語っていた。
その先にある木々に囲まれた縦長の小屋のような場所で、パーンと衝撃音が響くと、近くの木の上の雪がドサリと落ちて雪を深くした。
中では一人の少年が執り弓の姿勢を取っていた。
執り弓の姿勢とは、足を三センチ程開き足から項までを真っ直ぐに伸ばす姿勢で、しっかりと決められた型で立つ姿がそこにはあった。
恐らくあの足跡は彼の足跡だろう。
玄関の入口には雪の付いた靴が綺麗に並んでいるところを鑑みても、几帳面な性格が出ていると取れる。
凛とした立ち姿に、短めのストレートの髪、まだ男の風情は薄く顔は整った綺麗な分類。
「はぁ...」
と、吐き出した息は白く、後ろで煌々と燃えるストーブは火を入れたばかりなのか、鉄の焼けるキンキンとした音を鳴らしていた。
矢を射て、そこに正座をし精神統一すると周りの音が耳に入る。
ガサリ、と壁伝いに聞こえて目を開くと男は靴を履いて玄関の扉を開いた。
ドアにほど近い場所に窪みがあり、その場所に黒く蠢く何かがいた。
「...誰?」
声を掛ければ、ゆるゆると振り返り顔中痛ましい程の傷が見て取れる。
「またお前かよ」
と、呆れた声がすると怪我をした男はフイッと視線を逸らす。
「道場の裏は喧嘩する場所じゃないって何度言えば...」
言い切る前に蹲った男がドサリと倒れ込んだから、慌てて靴を履いて倒れた男を抱き上げて道場の中に戻った。
靴は、先程とはうって変わり乱雑に脱ぎ捨てられていた。
ストーブの上には大きな薬缶が置かれシュンシュンと音を鳴らして白い蒸気を上げていた。
「う...」
と、ストーブの前でゴロリと横たわっていた先程の男が呻いた声で、精神統一に目を閉じていた男が眼を開いて横たわる男を見た。
どうやらただ呻いただけのようで毛布を乱雑に被せた。
「風邪ひかれちゃ堪んないしな」
毛布を掛ける理由を口に出し、寒い道場の中再び精神統一の為に目を閉じた。
シンと静まる道場は雪のせいで外の音を完全に遮断し、ストーブの上の薬缶だけがシュンシュンと蒸気を吐き出していた。
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