548人が本棚に入れています
本棚に追加
社は朝目覚めてすぐに、すやすやと心地よさそうに眠る銀を見て薄く笑った。
髪をくしゃりと撫でて、頬を撫でる。
ゆっくりと指を頬に這わせ肌の感触を楽しむ様に数度撫でると手を離した。
「銀...帰るからな?」
聞こえないと承知で名前を呼ぶと、社は布団から出た。
着替えを終わらせて自宅へと到着すると、手のひらをジッと見てから、その手で両頬をパチリと叩いて、大きな寺の門を潜った。
清浄な空気、手入れの行き届いた枯山水の様な庭を一瞥し、家に入らず玉砂利の石を見てホッ吐息をついた時だった。
「帰ったのか...」
「...兄様、おはようございます」
着流しで、張り出した縁側を歩く兄に頭をひとつ下げた。
兄は骨格が良く、顔は精悍であり弟とは似ているとは言われたことは無い。
顔付きも母親に似た一とは、違う質の面を持っている。
かろうじて檀家の人が気を回し〝似ている〟と言うが社自身はそれを納得はしていない。
「はじめ!!母さんを心配させるな」
そう言われて、一はひとつ舌打ちを鳴らした、
......................................................
着替えて学校の支度を終わらせると、奥の間に向かって、息を吐いた。
「昨日は、帰らずすみません」
そう挨拶すると襖が開いた。
「一、泊まった先は女の家?」
髪を右サイドで緩く結い紐で纏め青白く美しい顔をした女が着物の前を整えながら、姿を見せた。
「いいえ、同級の男子の寮で泊まりましたし、女ではないですよ」
そう答えていた一の頬を指でゆるりゆるりと撫でる。
「そう...ふふっ、お父様と一緒で貴方も女が好きなんでしょうね、憎らしい」
「っ、...」
憎悪に歪む、美しい顔が一の頬を引っ掻くと、じわりと三本の爪痕が蚯蚓脹れになり、そこに赤い玉がぷくりと膨らんだ。
「申し訳ございません」
「いいのよ、でも男友達の家に泊まる時でも連絡はよこしなさい」
昨日の連絡は、母にまで届いていなかったのかと、深いため息を落とした。
「あら、このままだと学校へも行けないわね」
そう言って笑った母が一の頬を手のひらで撫でると、滲んだ血液が伸びる。
「行ってきます...」
まるでその行動が当たり前かのように一は踵を返して部屋の前から去って行く様を母が高笑いで送り出した。
最初のコメントを投稿しよう!