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黙って、社の前で立っていた銀が膝を折って弁当を差し出す姿をのぞき込んだ。
それが、むず痒いかのようにそっぽを見てしまう。
「腹減るだろ」
食べていいよと素直に口には出さずに、社がそう伝えると、銀は覗き込んだままニッコリと笑って口を開けた。
「1口あーん」
その銀の行動を見て、社がふっと笑ってから弁当を自分の膝の上に戻しながら一言を放つ。
「...あ、要らんのな」
「いや、食う…」
箸を持った手を引っ張って銀は自分の口中に社の持っていた唐揚げを口へと入れる。
「んまい」
「もっと食え」
そう言って差し出されたお弁当をジッと見て銀がフッと笑った。
その表情を見て、何かを感じ取ったのか社も同じように微笑むと、弁当を差し出した。
それを素直に受け取った銀が社の前に座って半分ほど残っていた弁当を綺麗に食べると、手を合わせてごちそうさまと呟く。
「てか、お前何で来たんだよ」
弁当を仕舞いながら、社が聞けば銀はフッと笑って何でだろうなと答え、社の横に座った。
「なぁーんか違うんだよなぁ」
そう言うとだらりと手足を投げ出す銀を横目に見て何がだよと、社が聞けばウーンと何かを考える。
「いや、なんかアイツも違った」
「だから何がだよ」
意味が解らないと言うような顔で問えば、銀も解らないと言うような表情で苦笑いを零した。
「俺、何探してんだろう?」
社を見ながら問えば問われた本人が知るかとそっけなく答えて弁当箱を横に置いた。
地面に座って、二人空を見上げた。
「お前なら解ると思う」
「…何で俺が」
そう答えて二人口を閉じてしまった。
空は静かに雲を流し、ゆっくりと風が吹くとまだ少し風が冷たい。
「戻るか」
「俺サボる」
銀の言葉に社が手で頭を叩き、立ち上がると尻をパンパンと払う。
そして手も払うと、そのままその手を銀の前に出した。
「単位は落とすな」
その言葉に、チッと舌打ちを落としてから差し出された手を取り、銀も立ち上がった。
「優等生め」
「何とでも言え」
そう言いながら、屋上を後にした。
結局二人は授業を受けそれぞれに自分の場所へと向かった。
社は部活が本日は休みと言う事で、早い時間から自宅へと向かう足取りは重かった。
大きな門を潜れば、旋回して勝手口へと回ると扉を開き中へと入る。
扉を開き中へと入れば、台所に母の姿。
社はギシリと胸が痛んだ。
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