薊 (あざみ)

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銀は腕の中で疲れ果てた社の温もりを感じながら目を閉じた。頭の中では、これ以上言葉を交わしてしまえば、もしかしたら社は自分と距離を取るかもしれない。 そう思ったが、言わずにはいられなかった。 「苦しくなったらここに来たらいい、俺が守るから」 少しだけ身じろぎを感じると、目を開けてチラリと銀の肩に寄り添った社を見た。 「ははっまるで絵本の王子様だな」 茶化すように言ったが、銀は至極真面目な顔で社の頬を撫でた。 「俺はお前を守りてぇ、ただそれだけだ」 真っ直ぐに伝えられた言葉を軽く流す事も出来なかった社は苦笑いで、ありがとうと感謝の言葉を告げた。そして銀の身体から離れ、布団に横たわった。 銀も社の横に、倒れる様に横になれば、ベットもその振動でギシギシと揺れる。 「なんかさ、俺は家族とほとんど縁がなかったんだよな。付き合っていた女も、守ってやりてぇとは思ったけど、何となしに違ってた。そんなんでいつもモヤモヤして苛立ってた。そんな時に知り合ったお前が1番気になるんだ...何でかはわからんけどな。だから、俺が守る 」 そう言われて、胸の奥がムズ痒くなったのか社は銀の投げ出された腕を引いて頭を寄せた。 「なら、今日も枕な」 くすくす笑いながらふざけていたら、その腕に抱き込まれて社が目を見開いた。 「ちょ、(ゆずりは)!?」 「ん、はじめが、枕って言うならそれでいい。俺も抱き枕にする」 良く分からない理由を告げて、抱き込む銀に苦情もなく静かに抱き合った。 「てか、心臓ヤバいの何でだよ」 くすくす笑って、抱き込まれた社がコンコンと胸板をノックする。 「わかんねぇ...けど、なまら気持ちいい」 「女日照りかよ、振った癖に」 「お?妬いてんの?」 「アホ」 そんな会話をして行くうちに、目を閉じた社はそのまま眠ってしまっていた。 それを確認してから、銀は布団から出て机に備わっている椅子に腰掛けた。 胸に手を当てて首をひとつ傾げて髪を無造作に掻いた。 背もたれを抱き込むように座り足だけを動かしてベットの側まで進めば、眠る社の姿が目に入った。 「いけ好かない奴だと思ってたのに、大違いだったな」 そう言いながら寝顔に指を押し込む。 その違和感に寝てる社の綺麗な顔が歪んで、顔を背けられ銀はくくくと笑った。 何が楽しいのかは、わからないが銀はそうして満足した様に眠る社をみつめた。
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