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挨拶がわりと片手を上げる銀に対し社はチラリと視線を向けた。
「何でそこにいる」
「いや、朝は助かったサンキュ」
ヘラりと、笑う顔は整っていて美しさが際立つが殴られた、痣が顔の数カ所に傷を残していた。
「...死なれたらたまらんからな」
そう告げて社は、部室へと入っていくと銀は真面目ヤローと1つ文句を落としてその場を離れた。
◆
銀は、家には戻らずそのまま少しだけ栄えた街へと向かう。
戻り時間など気にする必要も無い。
学校の寮は既に銀の存在など気にもとめてくれないのだから。
それを解ってるからこそなのか、今自分は何をしたらいいのか、どうしたいのかと日々葛藤していた。
だからこそ溜まったフラストレーションは喧嘩に形を変えてしまう事もある。
「杠てめぇ、なまら(とても)むかつくんだよ!」
殴りかかって来る相手は人との殴り合いに慣れていないのだろう。
真っ直ぐに殴り掛かってきたので身体をツイ...と横にずらし足を立てて前へと出せば無様に男が転がった。
「てめぇ、ふざけんなっ!」
激昂した男が、銀に殴り掛かるものの、それを綺麗に躱し、今度は腕を取り肘の関節を曲がらないように抑えてから、足を引っ掛けて体勢を崩した男の背を軽くポンと押せば勝手に先に転んだ男の上に転がり乗った。
殴り返すこと無く二人の男が地に沈んだ。
「おめぇら、弱ぇよ...つまんねぇな」
そう吐き捨てて、落としていた通学カバンを拾うとパンパンと誇りを払い落とし、スタスタと歩き出した。
「したっけな(またな)!強くなったらまた来いよ」
そう伝え、銀は学校の寮へと戻っていった。
そこまで栄えていないこの地は、ほとんどの人が寮生活をしていて、自宅が近くにある人は数える程度しかいないのだ。
なのでほとんどの生徒が寮で生活をしている。
銀もその中の一人なのだ。
部屋の鍵を開けて中へ入れば8畳ほどの部屋で、ベットと机が置かれていてそれだけである。
風呂、トイレは共同で食堂も共同である為に隣の部屋の音はすぐに拾えてしまう。
そして隣は...
〝ゃ、聞こえるよ...〟
〝銀だってやってんだたまには聞かせてやれよ〟
と、甘い声が筒抜けでありガリっと1度頭を掻いてからそのまま布団を被った。
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