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清貴の予想は当たり、すぐ近くに出来た大きなサークルモッシュを横目に自分達まで及ばないようにしてる内にステージが終わった。
移動しながらも紗季は勢いや熱気に目をぱちくりとさせ、未だ唖然としている。
「何、さっきの。丸くなってぐるぐる回ったり一気に真ん中に集まってわーって。マイムマイムの凄い版みたいな」
「フォークダンスにすんな。あれはサークルモッシュ。聞いたことない?」
「ああ、あるある。あれがそうなの?驚いたぁ……」
「さっきのやつはファン層若いから出来やすいね。巻き込まれると危ないから隙間のなかった前行ったんだ」
やたらと周囲をきょろきょろしながら、場所を選んだり変えたりしていたのはそのためか。
さりげなくされていたらしい気遣いに気付き、紗季の清貴を見る目が少しだけ、変わる。
「ふうん。キヨは参加しないんだ」
「昔はしたけどさすがにもうね。お前もいるし」
「あら、行きたきゃいいよ?」
「嫌だわ。紗季が行きたいって言うなら付き合ってやるよ」
「やだよむりむり、怖いもん」
勢い良く首を横に振った紗季に清貴は「冗談」とからかうように笑い、次のステージに誘導した。
「始まってる」
またすいすいと人の間を縫っていこうとする清貴に、紗季は一瞬唇を尖らせてそのTシャツの裾を掴んで追い掛ける。
清貴はちらりとそれを見遣り、ふ、と笑って中程の柵の辺りまで進んだ。
メロディアスに奏でられるストリングスを合わせたロックサウンドは、先程聴いたものと全く異なる雰囲気だが紗季の好みにまたしても合致している。
わあ、と漏れた口は開いたまま、あっという間に音の虜になって紗季の身体は弾み始めた。
表情がすぐに変化したのが細々と切り替わる照明の中でもわかって、清貴は思わず口元を綻ばせる。
自分の好きな物を誰かが好きになってくれる。それだけのことが、とても尊いもののように感じた。
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