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2月14日。
好きな男の子に女の子たちがチョコレートを渡す、世のリア充のための日。
私-日比野音奈は別に彼氏がいるわけでもないし、好きな人がいるわけでもない。どちらかというと”非リア充”型。
でも私はバレンタインが好きだ。
「あっ!今年も音奈ちゃんのお菓子あるんだ~!やったー!!」
「ありがとうっ!はい、お返し~!!」
お菓子作りが好きな私はクラスの人たちに毎年この日、お菓子を配る。
私のお菓子つくりの腕が試される一大イベントだと私は勝手に思っている。
「日比野さん、チョコ俺にもくれない?」
「はい、どうぞ。」
「うおおお!うまっ!ナニコレすごっ!!」
「これ去年より美味しくなってるよね~!」
「材料何使ってるの?今度作り方教えてっ!」
「あー無理だよ、毎年音ちゃん作ってきてくれるけど、作り方は秘密なんだって~。」
「ちょっと、調味料が自家製なもので…。」
「え、すご~い。」
きゃっきゃと楽しそうに行われる目の前の会話に自然と私の頬も緩む。
でも、私が好きなのはこの後。
「なあ、日比野。俺さ、こんな上手いお菓子食ったことないんだよ。また作ってきてくれない?」
クラス一美男子の林谷君が私の近くに来て、そう言った。
それに私は少し困った顔をする。
「ごめんね。私、バレンタイン以外ではあんまり学校でお菓子を振舞わないようにしてるの。材料費もかかるし…。」
「あ、そうなんだ…。」
林谷君がしょんぼりとして私を見る。その様子がまるで犬のように可愛かったから、思わず笑ってしまった。さすがクラス一の美男子。落ち込む姿も様になる。
「あ、でも。」
そこで私はこう切り出した。
「お菓子ね、今日作るんだけど…。もしよかったら食べに来る?」
林谷君の顔が喜びの色を浮かべる。
「じゃあ、いくっ!!」
「わかった。後で住所教えるね?あ、これ皆には秘密だよ?大勢に来られると本末転倒だし…。」
「もちろん誰にも言わねーよ!」
その言葉にほっとした様子を見せて私は林谷君に、あとでね、と声をかけ背を向けた。
私がそっと口角をあげたのは、誰も知らない。
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