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その後まりんはヌシおばさまに連れられて、刺繍仕事をしていた家屋へと入った。この家屋は幸運にも火をつけられるのをまぬがれ、中の刺繍ものも無事だった。
「そうかい、あんたケンタって奴と一緒だったのかい……」
いつものようにキセルをふかしながらそう言うヌシおばさまに、まりんは「こくり」と頷きながら答えた。
「うん、ケンタも、おばさまにはお世話になったって。よろしく伝えてくれって」
それを聞いて、ヌシおばさまは「がははははは」と豪快に笑った。
「ははは、あいつも一人前のこと言えるじゃないか。そうだねえ、あいつは色々世話したねえ」
ヌシおばさまは、少し遠くを見るようにしながら、ケンタのことを話しめた。
「最初はさ、村にある野菜なんかを盗もうとしたところを、あたしが見つけてさ。そりゃもうとっちめてやったんだけど、聞いたら色々事情があるらしくてさ。だったら盗むとかしないで、堂々と下さいって言えばいいんだよ! ってね。恥でもなんでもない、生きるってのはそういうことなんだって教えてやったのさ。それからはちょくちょく、あたしのところに食べ物とかねだりに来てたねえ、案外憎めないような、可愛いところもあってさ」
ヌシおばさまの話を聞いて、まりんも少し微笑ましい気持ちになった。もう、ケンタったら。あたしもケンタも、おばさまのお世話になりっぱなしじゃない……。
「で、ね」
ヌシおばさまは、これからが本題というように、「よいしょっ」と体の向きを変え。刺繍ものを置いてある棚を、家捜しするようにかき回し始めた。
「あんた、これから長い旅に出るんだろ? そしたら、それなりの靴を履いていかなきゃダメだよ」
そう言っておばさまが取り出したのは、皮で出来た靴だった。まりんはむこうの世界で家に上り、靴下のままここへ来てしまったので、それからは母親のいる家にあった、簡単な草履のようなものをずっと履いていたのだった。
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