第一章

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 1 「ごめん……俺、ちょっと無理だわ」    少しの沈黙の後、タケシが言い放ったその言葉に。まりんは呆然と立ち尽くした。 『……ふられたあ』  全く予想していなかったわけではない。いやむしろ、駄目で元々! という、特攻精神に満ちた告白だったと言ってもいい。それでも、タケシの言った「無理」という言葉が、まりんの頭の中でぐわんぐわんと鳴り響いていた。なんだか頭の中で、除夜の鐘を叩いてるみたい。まりんはこの現実から逃避するかのように、そんな全く関係ない事を考えようとしていた。  だが、いくら逃げようとしても、目の間の現実からは逃れられない。まりんは、振られたのだ。決して飛び抜けてイケメンというわけではなく、ルックスよりもこの人ならお互いの趣味や生活のサイクルも合うだろう、私のことをわかってくれるだろうと思い、そう信じ、思い切って告白した同級生の男子に。 「はあ……」  学校からの帰り道は、いつも以上にけだるく感じられた。徒歩で十数分の距離が、永遠に続くかのようにも思えた。自分が、他の人から見れば「一風変わった女子高校生」だってことは自覚してる。だから、彼氏なんかも作っちゃって、幸せいっぱいの高校生活! なんてことは、遠い世界の話だと思っていた。……でも。  彼なら、わかってくれる。彼なら、私を受け入れてくれる。……そう、思ったんだけどなあ。まりんは、人から好かれようだなんて考えていた自分の馬鹿さ加減に、自分の考えの甘さに。ほとほと愛想を尽かしつつ、自宅への道をとぼとぼと歩き続けた。    もうこうなったら、自分の世界に入り込むしかない。自分だけの世界に、埋没するしかない。いつだってそうだったけど、今日はもうとことんやってやるわ。自宅が近づくにつれ、まりんのとぼとぼとした足取りは、徐々に早足になっていた。半ばやけくそのようなその時の心境が、自然とそうさせたのだろうか。
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