第一章

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 鏡を買う、資格……?! って、ど、どういうこと?? 「君の話を聞くまでは、推測でしかなかったけど。今は、確信に近い。君は、店の人に受け入れられていた。鏡も、格安で手に入れることが出来た。でも僕は、全く逆だったんだ。道に迷ったあげく偶然あの店を見つけて、面白そうだなと入ってみたものの、店のお爺さんはすっごく迷惑そうな顔をしてね。正直、『あんたのような者が来る場所じゃない』って感じだったよ。ちょっと店の中を見るくらい、いいでしょ? って食い下がり、しぶしぶ承知してくれたものの、鏡を欲しがったらそりゃあ猛烈な勢いで断られてさ。これはあんたに売るようなものじゃない! いや、そもそも売り物じゃないんだこれは! ってね」  私の時と、全然違うわね。私には、「この鏡は、君に見つけてもらう運命だったのかもしれない」とまで言ってくれたのに……。 「君に見つけてもらう運命、か。なるほどね……。で、僕は全く逆の対応をされたから、ちょっと頭に来てさ。お爺さんの隙を見て、ちょいと『拝借』しちゃったんだ」  ええええ! 万引きした、ってこと?? 「いやいや、ちょっと『借りた』だけだよ。すぐ返すつもりだったさ。遠くまで持ち出したわけでもないし。この店お客少なそうだし、お釣りなんかもそんなに用意してないだろうと思ってさ。どうでもいいような安物を買うって言って、万札出して。これ買ったらすぐ出てくから、早くお釣り頂戴よ! ってね。案の定、お爺さんが店の奥に行ってお釣りの札を持って来ようとしている間に、『ちょっと拝借』したんだけどさ……」 「店のすぐ近くで、どれどれ、それだけ『大事な』鏡ってどんなものかじっくり見てやろうと。道端の壁に立てかけて、鏡をじっと見つめていたら……そこからは、君と同じ。鏡の中に、『この世界』の風景が見えて。それを覗き込んでるうち、気が付いたら、この世界に立っていたってわけなんだ」
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