第一章

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 あらららら…… 「わかるでしょ? 君は、自宅の近所に忽然と現れたあの店で、店の人に受け入れられ、そして『運命のように』鏡を手にしたわけだけど。僕は、偶然迷い込んだ店で鬱陶しがられ、鏡を買うのを頑なに拒否された。いわば、君はここに来る運命だったかもしれないけど、僕は間違ってここに来てしまった、ってことなんだ」  こ、ここに来る、運命?!! 「そう。それを証明する事例が、まだ他にもある。『間違って』ここへ来てしまった僕は、それからずっと一人きりだったんだよ。君のように、『家』なんかなかった。もちろん、家族もね。あちこちさまよったあげくに、空き家を見つけてそこに潜りこんだけど。食べるものもこの世界のお金も持ち合わせがなかったから、他人の家や畑から作物を盗んだりしながら、なんとか生き抜いたよ。おけげで、さっき見せたようにこの一年でケガの治療とかも自然と身に付けたし、随分逞しくなったけどね」 「で、この辺りの地形なんかも詳しくなったところで、さ。君がいた、あの『家』ね。あの家、君が『ここに来る』まで、何もない場所だったんだよ。昨日まで、草の生えた空き地だったんだ。そしたら、急に家が建ってるんだもの、びっくりしたなあ! なんだ、どうしたんだ? と思ってたら。『君』が、これまた忽然と、現れた。そして、当たり前のように、その『家』に入り。母親らしき人と、家事なんか始めてる。これが、運命でなくて、なんだっていうんだい??」  そういうこと、だったの……。それで、私のこと外からずっと見てたのね……。 「うん。気付いてたか。ごめん。すっごく気になってさ。そして、君が家事を終えて出かけたので、これも申し訳ないけど、後をつけていった。そしたら、この『血まみれの兵士』を見つけたってわけだ」
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