第二章

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 1  私が、ヒロイン……!  その言葉は、まりんの心を大きく揺さぶった。そんなことを、現実の世界で言われるなんて思ってもみなかった。いや、今いるこの世界が「現実の世界」とは、ちょっと言い難いけど。でも、自分がそんな言葉を面と向かって言われることになるなんて、予想もつかないことだった。 「ええ……それって、いえ、なんか、嬉しいというか照れくさいけど。でも、どういうこと??」  いきなり迷い込んだこの世界で、右も左もわからない状態で。自分がそんな役割を負っているとは、とても思えないんだけど。確かにあのお店の神なお爺ちゃんは、あの鏡に出会ったことが、運命かもしれないって言ってたけどさあ。 「まあ、君が戸惑うのも無理はないと思うけどね。まだこの世界のことについて、ほとんどわからない状況だと思うし。だから……」  ケンタはそこでぐっと身を乗り出し、まりんに訴えかけるように話し始めた。 「僕が、それを君に教える。この一年間で僕が知りえた情報、蓄えた知識を。それが、僕の役目なんだと思うから」  僕の役目……そうそう、さっきもそう言ってたけど。それって、どういうことなの? まりんの問いかけに、ケンタは尚も自分の思いを語り続けた。 「さっき話したように、僕はここに“ほんの偶然”やってきてしまった。だから、僕の周りには何も起きなかった。こんな血まみれの兵士が倒れているみたいな、劇的な事件なんかね。それが当たり前だと思っていた。だけど」 「こうしてほぼ一年間、辺りの様子や地形なんかを調べながら、なんとかこの世界で生き抜いてきたことは、無駄じゃなかったんだと。僕がこの世界に来た意味も、ちゃんとあるんだと。君に出会えて、初めてそう思えたんだよ。僕が今までやってきたことは全部、それを君に伝えるためだったんだ。この世界のヒロインたる君に、君のこれからの冒険に役立つ知識を伝える。そのために僕はここに来たんだな、って……!」
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