57人が本棚に入れています
本棚に追加
家に帰って、部屋に入って鍵をかけて、携帯の電源も切って。あたしの一番好きな、コスプレの衣装を着て。部屋の床や机の上にずらっと並べていると母親に怒られたりするからいつもは戸棚の奥にしまっている、好きなキャラクターの写真とフィギュアを部屋中にばらまく。そこは、私だけの世界。私はそこでは女王よ。王女さまよ。誰にも邪魔なんかさせないわ。
まさしくそれは、つい先ほど目の当たりにした現実からの逃避に他ならなかったのだが。もうまりんには、そんなことを冷静に考える余裕はなかった。ただ今は、ひたすらにそうしたい。そうせずにいられない。そんな気持ちだけが、まりんを支配していた。
と、ふと気づくと。頭の中を妄想でいっぱいにして早足で歩いているうちに、いつの間にかまりんは自宅の前を通り過ぎてしまっていた。さすがにまりんは、自分で自分が可笑しくなった。何やってんだろ、あたし。タケシ君のことを頭の中から振り払おうとして、妄想に夢中になって、家の前を通り過ぎちゃうなんて。
……でも、タケシ君ならわかってくれると思ったんだけどなあ……。SFやファンタジー小説が好きで、そういったゲームも好きで、映画もよく見ていて。いわば、「オタク」の部類に入ると言ってもいい男子。彼自身がコスプレをするとか、そっち方面に興味があるとかいう話は聞いたことなかったんだけど。そんな世界を愛するあまり、自分も「その世界の住人に近づこうとしちゃう」女の子のこと、わかってくれると思ったんだけど。
「……だめ! だめだめだめ!!」
気が付けばまたタケシのことを考えようとしている自分を諌めようと、まりんはあえて実際に口に出して、そう言ってみた。自分に言い聞かせるかのように。ほんとにもう。自分みたいな社交性のカケラもないコスプレおたく女子が、同級生の男子から好かれようだなんて思ったのがそもそも間違いだったのよ。そりゃあ、「無理な話」よね。まりんは、ふうっと一息深呼吸すると。体育の授業でやるような、キッチリとした「回れ、右!」をして、再び自宅へ向かって歩き始めようとした。……すると。
最初のコメントを投稿しよう!