第一章 失踪

16/16
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/63ページ
「古いペンダントのようですが……いつのものかは分かりません」 封印式の札でピッチリと覆われているが、どうやら丸い形をしているらしい。 ムドウの脳裏に、ある男の影が過(よぎ)る。 「少し借りるぜ」 「あ、ちょっと! しっかり調査してからの方がーー」 彼女の手からひょいと取り上げ、ムドウは封をめくる。 錆び付いたロケットペンダントらしい。 試しに引っ張ってみるが、中は固く閉ざされており開きそうにない。 「ちっ、ダメか」 舌打ちするムドウの手から、細い指が横切ってそれを奪い取った。 「危険なものかもしれないんですから、不用意に触らないで下さい! それとも、何か気になることでも?」 ムドウは少し間を空け、思案顔になる。 「……ゲルディとの戦闘中、グレイサーの名を聞いた」 「えっ!?」 「なぜこんな禁域で、しかも死凶精が奴の名を知っていたのか。 今回の調査と、何か関係があるような気がしてな」 「まさか……」 「レイビー以上の使い手となると、奴は充分に条件をクリアしてる。 あの人ーーオーマがなぜ失踪をしたのか、その理由にもこの環境であれば説明がつく」 「上層部はグレイサーの動向を探っていましたからね。 まさか、ここに潜んでいる可能性が?」 「さてな。 他の反応を辿るってのが早いと思うが、仮に奴と遭遇しちまったらーー」 ムドウが話し終える前に、その姿が霧に飲み込まれていく。 「ムドウさん!?」 「おいおい……今度はなんだってんだ?」 身構えるムドウとシェールの足元で、一筋の閃光が走る。 次の瞬間、二人の姿は跡形も無く消えてしまった。
/63ページ

最初のコメントを投稿しよう!