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目隠しになりそうな木々の影に停めておいた車に乗り、エマの安全を冬呀は見守る。
数分もしないうちに玄関の扉が開き、若い女性たちが不思議そうに顔を覗かせた。
(ここは寮か?)
まるで大学の女子寮かというほどの人数が出てきて、ベンチに座って眠る彼女に気づいて何か騒ぎはじめた。
優れた聴力を持つ冬呀も、さすがに離れた場所の車の中に居たのでは、何を話しているのか分からない。
協力し合いエマを立ち上がらせ、一人が背負うと扉の奥へと消えていった。扉が閉まり、冬呀は数分そのまま様子を見て、誰も戻って来ないのを確信してからシートベルトをした。
エンジンが静かに息を吹き返したのに、この場所から去りがたくなっている自分の心に気がついた。
目を覚ましている彼女の声が聞きたい。
「ああー、くそっ!」
定期入れに入っていた社員証を、もっとしっかりと見ておくんだった。
そんな風に思ったが、今さら遅い。
名残惜しい気持ちをどうにも出来ないまま、冬呀は深くなりつつある夜の道へと車を走らせた。
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