第1章 二つの心

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[2] 「キレー、マロウみたい……」  そう言った彼女は、ゆっくりと目を閉じた。  一瞬、やっぱりどこか怪我でもしたのかと彼――森山冬呀(もりやまとうが)は心配したが、直後にアルコールの匂いが鼻を突いた。  どうやら、そのせいで酔いつぶれて眠ってしまったらしい。 「どうしたもんかな……」  冬呀は、小さく唸った。  酔い潰れた女性を路上に転がしておいたら、どんな事件に巻き込まれるか分かったものではないが、だからといって自宅に連れ帰る訳にもいかない。 「まったく、無防備だな」  若い女性が酔い潰れるなんて、と視線を下に向けると、ぶつかった拍子に落ちたのか彼女の鞄の中身が散らばっていた。  鞄のファスナーすら閉めていないことに、冬呀は若干呆れながら、片腕で彼女を支えながらゆっくりとしゃがんで拾っていると、定期入れを見つけて手が止まる。  悪いとは思いながらも、彼女が誰なのかということを知りたい好奇心には勝てない。もちろん、彼女を送るための情報が必要なのも事実だ。
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