第1章 二つの心

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「黒栖……エマか。住所は」  残念なことに、定期入れに入っていたのは資格の認定証と社員カードだけで、住所が書いてあるものはない。  冬呀は、途方にくれそうになった。  本当はやりたくないが、仕方なく鞄の中に手を突っ込んで、財布を取り出した。  あまり財布の中身を見ないようにしながら、最も名前が書いてありそうな保険証を探し出す。  意外にもあっさりと見つかった保険証を裏返すと、手書きで住所が書かれていた。 「とりあえず……独り暮らしじゃなければいいんだが」  完全に眠っているエマを見つめてから、自分の肩に頭をもたせかけて、腰と膝裏に手を入れて抱き上げた。  二人がぶつかった場所から、車までは二、三分で着く。  冬呀にとって、彼女の体重は軽いくらいだが、夜中に横抱きに女性を運んでいる姿は、見る人によってはかなり怪しく映る。  特に、相手が酔い潰れている場合には。  ただひたすら、パトカーが来ませんようにと冬呀は心から願った。 「まったく……とんだ災難だな」  一人、ぶつぶつと愚痴をこぼしていると、エマが身動ぎした。 「んっ……」  まるで、子犬が擦り寄るみたいに、冬呀の胸元に頬をこすり付けて、小さくため息を吐く。  その動作に、冬呀の心は揺さぶられた。
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