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「黒栖……エマか。住所は」
残念なことに、定期入れに入っていたのは資格の認定証と社員カードだけで、住所が書いてあるものはない。
冬呀は、途方にくれそうになった。
本当はやりたくないが、仕方なく鞄の中に手を突っ込んで、財布を取り出した。
あまり財布の中身を見ないようにしながら、最も名前が書いてありそうな保険証を探し出す。
意外にもあっさりと見つかった保険証を裏返すと、手書きで住所が書かれていた。
「とりあえず……独り暮らしじゃなければいいんだが」
完全に眠っているエマを見つめてから、自分の肩に頭をもたせかけて、腰と膝裏に手を入れて抱き上げた。
二人がぶつかった場所から、車までは二、三分で着く。
冬呀にとって、彼女の体重は軽いくらいだが、夜中に横抱きに女性を運んでいる姿は、見る人によってはかなり怪しく映る。
特に、相手が酔い潰れている場合には。
ただひたすら、パトカーが来ませんようにと冬呀は心から願った。
「まったく……とんだ災難だな」
一人、ぶつぶつと愚痴をこぼしていると、エマが身動ぎした。
「んっ……」
まるで、子犬が擦り寄るみたいに、冬呀の胸元に頬をこすり付けて、小さくため息を吐く。
その動作に、冬呀の心は揺さぶられた。
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