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標準的な骨格と白い肌。
ナチュラルなメイクや香水ではない優しい香り。
守ってやりたくなる。
そんな彼女の中で、一つだけ気になることがあった。
彼女には不似合いな黒い革の手袋だ。
どうみたって、守ってやりたいと思わせる印象とはかけ離れていた。
無意識にエマへと気をとられていると、駐車場へと辿り着いていた。
二十八年の人生の中で、これほど自分の心を奪うものに、出会ったことがあっただろうか。
車の鍵を開けると、助手席にエマを座らせて、シートベルトをかけてやった。
その間も、エマが起きる気配はない。
だから、冬呀は大人しめに扉をとじ、運転席へと回った。
エンジンをかけ立ち上がったカーナビに、目的地を入力するとすぐに経路が示され、目的地までの所要時間が表示された。
目的地までは、およそ八分。
夜中であるこの時間なら、八分よりも速く着けるだろう。
ゆっくりと、冬呀は車を走らせはじめた。
夜の街は静かで、昼間の雑音が嘘のようだ。
渋滞もなく、車の通りも少ない。道路に書かれた速度を守りながら、冬呀は横で寝るエマの寝息に耳を澄ます。
安心しきったその音色は、久しぶりに感じる安らぎを冬呀にもたらした。
信号で止まるたび、彼女を見ずにはいられない。
そして、怒りも感じる。
女性が一人で、介抱してくれる相手がいない場で泥酔すべきではない。
もしも変な事を考えている奴に襲われていたら、事件にでも巻き込まれでもしたら……。
冬呀はハンドルをぎゅっと握り締めた。
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