第1章 二つの心

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 標準的な骨格と白い肌。  ナチュラルなメイクや香水ではない優しい香り。  守ってやりたくなる。  そんな彼女の中で、一つだけ気になることがあった。  彼女には不似合いな黒い革の手袋だ。  どうみたって、守ってやりたいと思わせる印象とはかけ離れていた。  無意識にエマへと気をとられていると、駐車場へと辿り着いていた。  二十八年の人生の中で、これほど自分の心を奪うものに、出会ったことがあっただろうか。  車の鍵を開けると、助手席にエマを座らせて、シートベルトをかけてやった。  その間も、エマが起きる気配はない。  だから、冬呀は大人しめに扉をとじ、運転席へと回った。  エンジンをかけ立ち上がったカーナビに、目的地を入力するとすぐに経路が示され、目的地までの所要時間が表示された。  目的地までは、およそ八分。  夜中であるこの時間なら、八分よりも速く着けるだろう。  ゆっくりと、冬呀は車を走らせはじめた。  夜の街は静かで、昼間の雑音が嘘のようだ。  渋滞もなく、車の通りも少ない。道路に書かれた速度を守りながら、冬呀は横で寝るエマの寝息に耳を澄ます。  安心しきったその音色は、久しぶりに感じる安らぎを冬呀にもたらした。  信号で止まるたび、彼女を見ずにはいられない。  そして、怒りも感じる。  女性が一人で、介抱してくれる相手がいない場で泥酔すべきではない。  もしも変な事を考えている奴に襲われていたら、事件にでも巻き込まれでもしたら……。  冬呀はハンドルをぎゅっと握り締めた。
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