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その日は担任の吉崎先生が高熱で休みだった。6年2組はほぼほぼ自習で、代わりの先生がいない時間帯になると教室は無法地帯とかす。3時間目の算数はまさしくその状態だった。
後ろを向き直り、私の机で課題を解いている前の席のふうちゃんが、ヒソヒソ話をするように身を屈めた。
「ほら紗枝ちゃん、そっと夏川の方見て」
12年も女の子やっていれば、女子特有の嫌な感じに出くわすことは何度かあった。だからコレがその手の話なんだろうと言うことはすぐに察しがついた。私は廊下側に白々しく視線を這わせる。そんな時は変に正義をかざすのでは無く、話に適当に合わせとくのがいいという事を既に知っていたのだ。
細い身体つきに少し大き目な紺のシャツを着た男の子が、課題の算数のプリントを解いている。その姿はあまりにも周りと溶け込めず滑稽にみえた。
自習だということもあり周りは随分賑やかだ。隣と席をくっ付けて課題を解いている者。人気者の杉山君の席を囲んでいるグループ。諦めているのか解き終わったのかマイペースな田中君は眠っている。それぞれが三者三様はあれど、浮くという感じではなくこのクラスでのびのびと存在している。
その中で一人、黙々と課題を解いている夏川君は少し変わっていた。
皮肉なことにそれが夏川君だということで腑に落ちる。彼がこのクラスに馴染んでいないことを分かっていたからだ。いつも特定の友達と付き合っている素振りもなく、一人で黙々と本を読んでいる。
少し暗くて、一人ぼっち。それが夏川君だ。
梅雨ももう直ぐ上がるのか、気の早い蝉の鳴き声が窓の外から聞こえる。薄っすらと汗ばむ額から流れる汗は冷ややかだ。
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