異質な存在

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 話しながら手持ちぶたさを誤魔化すように、筆箱のジッパーを何度もゆっくりと開閉する。何かの話をしながら手を動かし意味の無いことをするのは癖のようなものだっだ。母から行儀が悪いから止めなさいと何度も注意されても直らない。 「あ、紗枝ちゃん! その消しゴム!」  ふうちゃんが話を遮るように私の筆箱を奪う。そして猫の形をした虹色の消しゴムを取り出し、自分の掌に乗せた。半透明で真新しい虹色の猫の消しゴムが掌で堂々と居座っている。 「昨日、遂にゲットしたんだ。やっとやっとやっと手に入れたよー! 虹色キャッツ!」 「すっごい!それって絶対に手に入んないレア物だよ!」   「うん、びっくりしちゃった! 昨日、たまたま。お父さんがお土産でチョコエッグ買ってきたんだ。その中に入ってたのー!」 「めっちゃすごい! 本物初めて見たー!」  ふうちゃんは興奮して、小さな消しゴムを持ち上げ目の前でかざした。半透明の虹色キャッツは、陽に透けてキラキラして見える。もう夏川君のことはどこかに吹っ飛んだのか跡形も無く消しゴムに話題が移り行く。女の子の会話は直ぐに変わるしこんなもんだ。  虹色キャッツはモフモフキャッツのレア猫だ。モフモフキャッツは人気ゲームだった。野良猫、飼い猫、稼ぎ猫、全ての猫のトップに君臨するレア物猫が虹色キャッツだ。そのキャラクターグッズを手に入れることは一つの流行だった。私も例外なくそれに嵌っていた。  特に虹色キャッツは手に入らない。更に卵型のチョコレートの中に入っているチョコエッグの虹色キャッツは奇跡だ。私の机には雑魚キャッツがごろごろして、まるで猫屋敷のように散りばめられている。虹色キャッツが出るまで出るまでと、全てのお小遣いをつぎ込んでやっとの思いで手に入れたものだった。
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