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日常の勘違い
一.
「じゃんけん、ほい! はい、ぐーりーこー」
「あー、また負けたー。今度こそ! じゃんけん……」
放課後の特別棟の階段では、本日も楽しげな声が響いていた。
私は一階と二階の間の踊り場に立ち、上から聞こえてくる高い声に耳を澄ませた。
ここは高校。しかしこの高い声は高校生のものではない。
「ちーよーこ、れーいーとー。よっしゃ、あがり!」
「えー、またシンくんの勝ちー?」
勝ち誇った声と、悔しさの滲んだ声を聞きながら、ゆっくりと階段を上って行く。
特別棟は四階までで、屋上はあるが立ち入り禁止となっている。その屋上の扉の前の階段の中ほどに一人の女の子と、階段を上がりきって下を見下ろして立つ男の子がいた。二人は小学三年生くらいの外見をしている。
「あ、ノリちゃん」
女の子が振り返って私を見、うれしそうに駆け寄ってきた。彼女はミナちゃんという。
私はミナちゃんの頭にそっと手を伸ばして、撫でるそぶりをした。彼女たちは実体をもたないため、直接触れることはできないのだ。
「ノリちゃん、今日トシ兄は?」
男の子のシンくんが階段を降りてきて、残り五段のところでジャンプした。
「さあ? 一緒じゃなかったから」
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