幽霊

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 最初にすべての部屋のドアを開け、誰もいないのを確認してから、客間、物置、寝室の順で各部屋を念入りにチェックしたという。しかし、ネズミ一匹出てこなかった。 「本当に」鏡花が言った。「何か変なところはなかったんですか」 「なかったわよ。寝室の窓際のカーテンレールに、ものすごくたくさん服がかかってたくらい。窓の半分を服がふさいでたの。衣替えをしようとしてたのって絹子さん言ってた」 「じゃあやっぱりお義母さんの気のせいだったんですかね」 「そうは思いませんよ」  きっぱりした口調でさくらが言った。 「あたし一人だけが気配を感じていたんだったら、そう思ったかもしれない。でもね、絹子さんもあたしと同時に天井を見てたんだから。あれはきっと、何度もああいうことがあったんじゃないかと思うのよね。それで絹子さんはその都度確かめてみたけれど、なんの異常も見当たらなかった。理子さん、あなただったらそういうときに、どう考える?」 「これは霊の仕業に違いない、ですか?」 「馬鹿ね、そんなわけないでしょう。さっき、理子さんも言ったじゃない、やっぱり気のせいだったって。普通はそう考えるわ。絹子さんもそう思ったのよ。頑張って、そう思いこもうとした。見えないものが存在するはずはないのだから、これは気のせいに違いない。気のせいではないなんて考えてはならない。だって、これが本当に、何かの異常事態なのだとしたら、一人で暮らすのは怖い。こんなこと、子どもみたいで誰にも言えないし」少し間を置いてから、早口で言った。「誰かに、痴呆症だと勘違いされるのも腹立たしい」  さくらの頬が震えていた。肩の線が強張っている。硬い声で続けた。 「そのときもね、お祓いをしてよってお願いしたの。でも聞いてくれなくてね。しつこく言い募っていたら怒られちゃった。あの人けっこう頑固なのよ」 「金づち」 「そう」鏡花の言葉に、さくらは笑みを見せた。「まあとにかくね、絹子さんって人はそうそう説得できるものでもないから、気がかりだけどそのままになってて、いつの間にか忘れかけていたのよね。そうしたらあの湯呑が割れたでしょう。しかもあんなに大切にしていたのに、どうやって割れたのか聞いたらこのあたしに嘘をつくのよ。最初のうちこそ気づかなかったけど、湯呑を割ったのが霊だとすれば平仄があうのよ」
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