ひび

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 だんだん、心配になってくる。  万が一、そうだとしたら? 明るくて、他人に心配をかけたくないと思うタイプの人ほど、悩みを内に溜めこんでしまうというが絹子もそうなのだろうか? 「じゃあ、どうしたらいいでしょうか。直接、絹子さんに聞いてみましょうか?」 「なんて聞くんだ」 「ええと、誰かにいじめられてますかって」  鏡花は正面から理子を見た。 「気が早いよ。絹子さんは、どういう人だと思う」 「さくらさんの友だちで」 「そうじゃなくて、今は教室の生徒だ。つまり、お客さん」 「それはそうですが」 「お客さんには根掘り葉掘り尋ねたりしない。プライベートに踏みこむときは慎重に。一緒にやろうって言ったとき、最初に決めたよな」 「……はい」 「そんな顔するなよ。心配ならさりげなく聞いてみてもいいけどさ、まだ絹子さんがどういう人なのか、全く知らないだろう。絹子さんだって、お前の良いところを知らない。もっとお互いに親しくなってからでもいいんじゃないかな。ほぼ初対面なのに、いきなり懐に飛びこむのはリスク高いよ」 「帰るんですか」 「帰るよ」 「でも、このままでいいんですか」 「絹子さん、具合悪そうに見えたか」 「そんなことは」 「悩んでいるようだった?」  理子は首をふった。 「じゃあ、大丈夫だろう。それでも気になるんだったら」 「何か案があるんですか」 「急がば回れだ。まずは、さくらさんから話を聞いてみるべきだな」  鏡花は発泡酒を飲み干すと、音を立てて作業机に置いた。じゃあなと言うと帰ってしまった。階段を下りてゆく足音が聞こえなくなる。さくらにメールをしたが十分待っても返事はなかった。腰を上げ、帰り支度をした。  マンションへの帰り道、自転車をこぎながら思った。  さくらと話すのは少しだけ気が重いな、と。
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