プロローグⅠ 封印された初恋

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 三月――  入試の日は雨だった。朝から真冬みたいに冷え込んでいたが、昂ぶる気持ちを鎮めるのにちょうどいいとまったく気にならなかった。  受験会場の教室の受験生たちはみな頭がよく見えた。えたやと知り合う前の私なら、それだけで圧倒されて何がなんだか分からない状態になっていただろう。  〈君が海星館に入学するのを心待ちにしています〉  朝、えたやがくれた最後のメッセージ。間違いない。えたやはこの学校の在校生か先生だ。  試験官や面接官の先生の中にえたやがいるかもしれない。えたやがもし在校生なら受験日は受験生しか校内に入れないからまだ会えないけど。  うだうだ考えてる場合じゃない。私は絶対に合格するんだ。リアルなえたやと出会うために!  一日目の筆記試験は英国数理社、どの科目も力を出し切れた。自分が本番に強いタイプだとは思えないけど、実力通りにはできたんじゃないかということ。  二日目は面接。えたやは事前に面接練習もしてくれた。  こう質問されたらこう答える、みたいな練習を何時間も続けた。  〈制服の着こなしや声の大きさや立ち振舞いもチェックしたい〉  えたやを信じ切っていた。今さら私の動画を悪用(どうやって悪用するか知らないけど)したりしないよね? 私は言われた通り、制服に着替えて椅子に座って自己アピールを話す動画を撮影してえたやに送った。  〈うつむくな、相手の目を見るんだ。もっと明るく大きな声で。自己アピールの内容がつまらなくて自己アピールになってない〉  ダメ出しされたけどそれでよかった。二回目の動画には合格点をもらえた。えたやはおそらく大人で、私はまだ大人じゃない。まだ大人じゃないからものすごい勢いで成長する自分をえたやに見せることができる。そのことが何より私にはうれしかった。
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