プロローグⅠ 封印された初恋

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 〈全部終わって今帰ったとこ〉  〈お疲れさま。無事終わったみたいだね〉  〈やるだけやった。これ以上は無理〉  〈今日はもうゆっくり休むといいよ〉  〈うん。眠くてもう倒れそう〉  〈じゃあ、またね〉  〈待って!〉  〈うん?〉  〈ありがとう〉  〈どういたしまして〉  〈好きです〉  〈ありがとう〉  勇気を振り絞った私の〈好きです〉に間髪入れずに返事が来るとは思わなかった。それも、二日間の入試が終わり心身ともに疲れ切った私を傷つけないようにというわけか、〈ありがとう〉などというあまりにも無難すぎる言葉が……。  やっぱりあなたは私に特別な感情なんて少しも持っていなかったんでしょうか?  その日、私は久しぶりに八時間眠った。ただひたすら眠くて夢も見なかった。  海星館に落ちても滑り止めの学校があると思うと甘えてしまいそうだから、併願はしなかった。  もし海星館が不合格だったら……。そのときは、定員割れの不人気校の再募集に応募するしかない。  もし昼間の学校で定員割れの学校がなかったら……。定時制か通信制の学校しかない。こんなに勉強して、もしそうなったら間違いなくショックだろう。でも絶対に立ち直ってみせる。天国のおじいちゃんを、そして今まで私のために尽くしてくれたえたやを、これ以上心配させるわけにはいかない。  合格発表日は受験の二日間とは打って変わってまぶしいくらいの青空だった。  発表時間は正午。その三十分前には合格者の受験番号が貼り出されるボードの前は受験した中学生でいっぱいになっていた。  どこかで私を見ている人がいるかもしれない。ボードからやや離れた場所からまだ見ぬえたやの姿をさりげなく探したけど、人が多すぎて早々にあきらめた。  どっと歓声が上がる。貼り出されたらしい。女子たちは抱き合って、男子たちは奇声を上げながら駆け回っている。一方で肩を落として引き返す人も。  人の波が少し引くのを待ってボードの前につかつか歩み寄る。一九四。あった。私の受験番号の辺りをスマホで撮影して、海星館高校をあとにした。  おじいちゃん、私がんばったよ。おじいちゃんがえたやとした約束、確かにいま果たされたよ――  空を見上げて心の中でそうささやいたところで、誰の返事もない。ただ春の陽射しが私の全身をいつまでも優しく照らしていた。
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