プロローグⅠ 封印された初恋

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 中三の夏休み、学校がないのをいいことに私はネット碁三昧の日々を送っていた。両目ハズシから五手目にその真ん中というおじいちゃん直伝の戦法で勝ちまくった。  ある日、1級なのに五段の私に対局申込をしてきた身の程知らずの人がいた。五段差だからハンデは五子。弱い相手といくら打ったって強くならないし、そもそも楽しくない。辞退ボタンを押そうとしたら、その人からメッセージが来た。  〈正直僕は弱いけど対局してくれませんか、森葉月さん〉  弱いと自覚してるなら対局申込しないでくれるかな。かまわず辞退ボタンを押そうとしたけど、問題はそこじゃなかった。  〈なんで私の名前を知ってるの? あなたは誰なの?〉  〈じゃあ対局承諾ボタンを押してください。話しますから〉  ネット碁会所では私はいつだって岩田源吉だったはずだ。おじいちゃんの言いつけ通り、誰かに自分の本名を漏らしたことはない。対局相手に個人情報を聞かれたときは、パソコン操作が苦手な老人の振りをして一切返事しなかった。  対局申込をしてきた相手のハンドルネームは〈えたや〉。得体の知れない名前。男か女かも分からない。おじいちゃんのいたずらならいいのに。一瞬そう思った。本気でそう思った。でもその可能性はまったくなかった。去年の秋、おじいちゃんは亡くなっていたのだから――
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