第一章 君の彼氏になりたい

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 静岡県東部にある私の住む沼津の街は最近ラブライブの聖地として知られている。というか、どうなのと思えるくらい市役所が積極的だ。市の広報の表紙をラブライブのキャラが飾り、ラブライブのキャラたちをラッピングしたバスやタクシーが市内を走り回り、聖地巡礼の若者たちが街のそこら中で写真撮影している。彼らはお金持ちが多いらしく、自分の車やバイクや自転車をラッピングしたり、けして安くはないグッズを買いあさる。私はバンデロールののっぽパンが好きなのだけど、のっぽパンもラブライブと関係があるらしく、沼津駅のキオスクののっぽパンがよく売り切れになっているのが腹立たしい。  私にとっての聖地はドンキホーテ。いつ行っても混んでいてにぎやかで、ゆっくり買い物なんてしていられない。でもそれはめんどくさくない。人の流れに合わせて進んでいくだけで、何も考えなくていいところが私の性格にぴったりだ。一瞬だけ考える。そして手に取った商品を灰色のカゴに入れて会計を済ませる。買うものはお菓子だったり文房具だったりその日の気分で決まる。コーヒーを飲まないのにコーヒーカップとか、ときどき意味の分からない買い物をして後悔することもある。  そういうとき私は生きてることを実感できる。いつもどおりではダメだ。いつもは越えないラインを踏み越えるときの非日常感。それがあるから毎日ドンキホーテに通い続ける。大人になっても通い続けるだろう。きっと死ぬまで。  今日は単三の乾電池を買った。私の人生みたいに無意味な買い物だった。
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