第一章 君の彼氏になりたい

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 そのあと、疾風は〈ちょっと部活やってくる。先に帰ってて〉と言って、私を置いてプールの方に走っていった。すごくうれしそうに走っていったけど、私の彼氏になれてうれしかったから? まさかね……。  帰り道、壊れたプレーヤーみたいに疾風の言葉が私の頭の中でリピートされていた。  君の彼氏になりたい。君の彼氏になりたい。君の彼氏になりたい。君の彼氏になりたい。君の彼氏になりたい。君の彼氏になりたい。君の彼氏に――  おかげで、駅までの道を間違えたり、電車に乗っても乗り過ごして終点まで行ったりして、帰宅時間は午後八時を回っていた。この日はドンキホーテには行かなかった。  その夜は一睡もできなかった。うれしかったからではない。だんだん冷静になって、冷静を通り越して絶望してしまったからだ。  日付の変わる頃には疾風の告白はもうなかったことになっていた。四つの可能性を考えだした。  ①友達にならないと言われてショックを受けている私を元気づけるために嘘をついた。  ②彼氏ができたと喜ぶ私をみんなで笑いものにしようとした。  ③そもそもすべてが夢だった。  ④幻聴。  本命は④。最近私は変だ。そもそも私は友達をほしがるようなそんな普通の性格ではなかったはずだ。孤高こそ至高。人の輪に入って笑われるくらいなら人の輪の外側でぶすっとしてる方がいい、そう思って今まで生きてきたはずなのに。  大穴は①。疾風は優しいから②はないだろう。もしかすると、③という可能性もあるかもしれない。  訳の分からない幻聴に襲われるくらい私の精神は病んでいるのかと絶望しているうちに朝になった。寝不足で死にそうだけど、真相を確かめるために学校には行かなくては! 夢や幻聴なら今日の方が危ないかもしれないけれど。
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