第二章 生意気!

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 あたしの家の前まで来た。涼が自分のハンカチであたしの涙を拭いてくれた。  「おれ、軽い気持ちで比呂美に彼女になれって言ったんじゃないんだ。おれは前から比呂美のことが好きだった。でも比呂美は疾風兄ちゃんしか見てなくて、でもおれはあきらめたくなかった。今年中に――比呂美は忘れてるだろうけど、十二月は比呂美の誕生月だけど、実はおれの誕生月でもあるんだ。だから、それまでには絶対比呂美を彼女にしてみせるって決めた。比呂美、さっさと兄ちゃんに振られろよ。そしたら、おれが今度こそ本当の彼氏になってやるから!」  「そのときはよろしくね。疾風君の劣化コピーなんかじゃない、疾風君に負けない魅力を持った杉野涼君」  涼はあたしに背を向けたまま手を振って、彼の家の方に自転車を押しながら歩いていく。もう振り返らなかった。たぶん照れくさかったのだと思う。涼は涼で今まで言えなかった想いを告白したんだ。あたしももう逃げないで、今までの想いのすべてを疾風にぶつけよう。  その前に、葉月に今までのことを謝らなければいけない。葉月が許してくれるなら、もう一度友達に戻りたい。あたしは、誰を彼氏にするとかしないとかそれ以前に、疾風に対しても涼に対しても恥ずかしくないあたしでありたい。  六月の炎天下の青空に一直線に伸びる白い飛行機雲。あんなふうには生きられないけど、あんなふうに生きていきたいとはいつまでも思ってたいんだ。
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