第三章 お母さんの明るい老後のために

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 教室では一言も話さなかった。友達のいない私はずっと一人で自分の席にいたけど、人気者の疾風は見るたびに違う友達と話していた。私がそんなリア充の彼女? 考えれば考えるほど分からなくなったから、途中から考えるのはやめた。  昼休み、図書室で疾風と話すのを楽しみにしていたけど、クラスの子たちが十五人も本を借りに来て、貸出処理に追われて話す暇なんてなかった。その中に比呂美もいた。友達ではなくなったし一言も言葉は交わさなかったけど。  そういえば、昨日クラスから本を借りに来させると図書委員会顧問の永田先生に約束したのだった。友達のいない私に代わって女子の分まで疾風が声をかけてくれた。男女で十人来ればいいところを十五人も借りに来た。疾風の人気は私の想像以上みたいだ。  放課後の図書室。やっと疾風と二人きりになれた。まだ梅雨明けしてないけど、今日も空は絵本みたいに気持ちいい青空だった。  カウンターの隣に座る疾風の顔を直視できないから、さっきから正面の窓越しの空ばかり見ている。疾風が私の彼氏ということは私は疾風の彼女なのか。それ以前とそれ以後の私に何の変化もないはずなのに、自分が自分以外の誰かのものになったみたいで妙な気分だ。  「何を考えてるの。思ってることは何でも言ってほしいな」  そんなこと言われても、疾風ほどのリア充がなんで嫌われ者の私なんかを彼女にしたのかなって思ってた、なんて言えるわけないじゃない。そう言えば優しい疾風は、君は嫌われ者なんかじゃないよと慰めてくれるだろう。私は自分がスクールカーストの底辺にいるという自覚はあるけど、だからといって誰かに同情されるのは死ぬほど嫌だ。
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