プロローグⅠ 封印された初恋

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プロローグⅠ 封印された初恋

 中学で存在感皆無だった私は高校でも存在感皆無だった。別に誰かにいじめられてるわけではないけど、ぽつんと教室に座っているだけで一日が終わる。まだ入学して二週間なのにクラスにはいくつかのグループができあがっていた。中には、いくつかのグループを掛け持ちしている子もいる。でも、私にはどのグループからも声がかからなかった。  確かに、私は明るくはない。頭がいいわけでもない。この高校は私の頭では無理だと中学校の担任が言っていた。でもこの高校に入学しないわけにはいかなかった。合格できて本当によかった。十五歳で路頭に迷うなんて冗談じゃない。でもある意味私らしいとも思った。  私はおじいちゃんっ子だった。だからといって、世間のおじいちゃんみたいに孫になんでも買ってくれるそんなおじいちゃんじゃなかった。私も何かをねだったことはない。逆に、おじいちゃんが喜ぶ顔を見るのが好きだった。  おじいちゃんは囲碁が好きだった。だから小学校のときから学校が終わると、何時間もおじいちゃんと碁盤を挟んで向き合った。私は小学校のときから友達がいなかった。それでよかった。勝ってても負けててもおじいちゃんの顔色は変わらないし、碁石を打つ強さも変わらない。そんなおじいちゃんを見てほっとした。悩みなんてなかった。こんな日々が永遠に続くと信じていた。  六年生のとき、ネット碁会所というものがあるとおじいちゃんから教わった。  「私は別におじいちゃん以外の人と打ちたくはないよ」  「おじいちゃんは葉月に強くなってほしい。そのためには僕以外の人とも打たないと」  おじいちゃんが望んだことだから私は従った。猫好きと囲碁好きに悪人はいない、というのがおじいちゃんの口癖だったけど、それでもおじいちゃんは心配だったのだろう。小学生の女の子が一人で渡って行くにはインターネットの闇は深すぎた。おじいちゃんは私のハンドルネームを〈岩田源吉〉にして、私のことを対局相手に年配の男性だと思わせることにした。  夜、寝る前に一局だけネットで知らない誰かと対局するのが日課として加わった。スマホでもできたけど囲碁の対局をするのには画面が小さすぎた。おじいちゃんはへそくりから私にデスクトップのパソコンを買ってくれた。おじいちゃん以外の人との対局は初めはそれほど気が向かなかったけど、新鮮な気持ちになれたし、なんというか刺激的でもあった。一局で終わらず二局三局と続ける日も出てくるようになった。
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