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帰宅して母に受かったよと伝えると、
「マジで!?」
と絶句された。
「残念会の用意もしてあったのに、あんた、どうしてくれんのよ」
冗談かと思ったら本気だったらしく、用意された料理はカツ丼にチキンカツにチョコレートのキットカット。再募集の学校の受験にカツようにということらしい。
それにしてもすごい量だ。やけ食いして不合格の憂さ晴らしをしろということだったのか? 馬鹿にしてるんだか優しいんだかさっぱり分からない。
受験はもう終わったけど、勝たなければならない勝負ならまだ残ってる。むしろこれからが本番かもしれない。私はありがたくカツの山を平らげた。
部屋に戻ってカカオトークを立ち上げた。
〈合格発表に行ってきました〉
メッセージはすぐ既読になった。えたやはオンラインだ! 合格したことをどう伝えよう? 伝えたら約束は果たしたからと私の前からいなくなるんじゃないか。そうならないようにするにはどうすれば――
〈知ってる。合格おめでとう〉
〈知ってたの?〉
〈一九四番だよね。数字を見て泣いてしまったよ〉
私の受験番号を知ってるなんて、やっぱり先生なんだろうか。
〈泣いてくれたの?〉
〈葉月さん自身は泣いてなかったのにね〉
〈自信があったわけじゃない。ただ合格できるって信じてたから。最後まで信じ抜くことができたのは、全部あなたのおかげなんだ〉
〈買いかぶりすぎだよ。運や偶然じゃなくて実力で勝ちたいって碁の対局のとき君は言ってたよね。君は勉強でも充分実力をつけた。君が海星館に合格したのは偶然じゃなくて必然だったんだ〉
〈あなたが現れる前、私が必然を求めたのは囲碁だけで、もっと大切な私の人生はただの運任せだった。あなたが私をここまで導いた。あなたの力がまだ私には必要なんだ〉
いつも間髪入れずに返事してくるえたやが初めて長考に沈んだ。分かってほしい。海星館に合格できたからといって、私は今えたやを失うわけにはいかなかった。
私はいくらでも待つつもりだった。えたやが条件をつけるならどんな条件でも飲むつもりだった。たとえ天国のおじいちゃんが悲しむような条件でも。えたやの要求がどんなに苛酷なものだったとしても、えたやを失いたくはなかった。
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