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プロローグⅡ 偶然なんて一つもない
「森っていつも一人で本読んでるよな」
「お高く止まって。気取りたいなら一高へでも行けばよかったのに」
おれの友達はいいやつらだけどたいてい口が悪い。森葉月が中学ではずっと並以下の成績だったこと、中三の夏休みから死にものぐるいで勉強して海星館に入学してきたことを、おれ以外では誰も知らない。
入学前に本人から聞いていた通り、葉月は友達を作るのが苦手なタイプらしい。いつ見ても一人。
同じ中学だった遠藤比呂美を呼び出した。比呂美は高校でも陸上を続けていた。おれは水泳でレースに出るたび賞状をもらってるけど、彼女は頑張り屋なのにレースでは勝てない。でもおれはそういうやつのそういうところを、なんというか美しいと感じる。そんなこと本人が聞いてもちっともうれしくないだろうけどね。
「どうしたの、疾風君」
「遠藤に頼みがあるんだ」
「言ってみて」
「クラスに森って女子がいるよな」
「いつも一人でいる?」
「そう。クラスに溶け込めてないみたいだから、友達になってやってくれないか」
「さすが疾風君、困ってるひと見たらほっとけないのは相変わらずだね。分かった。あの子と友達になるよ」
「くれぐれもそうするように誰かに頼まれたって知られないようにな」
「分かってるって!」
さっそうと比呂美が走っていった。さっそく森葉月のところへ行ったのだろう。なんでもおれの言うことを二つ返事で受けて、すぐに行動に移してくれる頼もしいやつ。男女間に友情は成立しないというが、それは嘘だ。おれと比呂美の関係がそれを証明している。
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