プロローグⅡ 偶然なんて一つもない

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 十分もしないうちに比呂美が戻ってきた。  「どうした?」  「あの子と友達になったよ。友達いらないのかと思ってたけど、ほしかったみたい。うれしいなんて言ってくれて拍子抜けしちゃったよ」  「報告ありがとう。でもせっかく友達になったんだから、もう少しそばにいてやれよ」  「そ、そうだね。戻るね」  また駆けていったけど、なんだかさっきより足取りが重いように見えた。  比呂美に葉月と友達になってもらったが、しばらくしたら今度は絶交してもらうつもりだ。唯一の友達に絶交されて落ち込んでいる葉月に今度はおれが近づいて恋人になる。  単純な作戦だがたぶんうまく行くだろう。葉月は碁の対局ではセミプロ級に深く読めるのに、対人スキルという点では小学生レベルだ。  葉月は突然友達ができたのも絶交されたのも恋人ができたのも全部偶然と見なし、その偶然を喜ぶだろう。ふだん碁の対局ではあれほど運や偶然を嫌って必然を求めるくせに。人生も碁と同じ。全部必然だったんだ。  葉月に好きだと言われたとき、おれもと答えてもよかった。えたやが自分と同じ中三の受験生だと知ったら驚いただろうが、たいした問題じゃない。  問題なのはおれと葉月の祖父の繁幸との約束なんて実は存在しなかったこと。だまされたことを知れば葉月はおれを許さないだろう。  葉月がえたやを美化しすぎていたことも問題だ。途中からまるで神様と話してるみたいに接して来られて正直苦痛だった。あのまま神様扱いされた状態でつきあったってうまくいきっこない。おれは神様でもなんでもない。杉野疾風というちょっと勉強ができて水泳がうまいだけのどこにでもいる普通の男子だ。
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