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自殺。俺は確かに自殺しようとしたことがある。中学生の時――当時のことはよく思い出せないが、確かにあの時、背後に誰かが立っている気がした。ということは、七海カナタも自殺をしたのだろうか。そして死神に選ばれた? 死神の目的は? 彼女の話を鵜呑みにしている訳ではないものの、目の前で悪魔を見てしまった以上、信じる以外に話が進まない。
あのまま死んでいれば、俺も彼女のようになっていたのだろうか。永延に続く痛みの中で、戦い続けることになっていたのだろうか。
「私は他人から与えられた痛みでしか武器を生み出せない。だから……これからも……」
また刺して欲しい。そう言いたいのだろう。
ナイフで刺された時、目を細める彼女の表情が――ナイフで刺された時、身体を遠ざけようとする彼女の反応が――不意に思い出されて、頭の中が塗りつぶされていく。
彼女を傷つける度に、何かが失われていく。
正体不明の何に圧しつぶされそうになる。
人を傷つけるというのは、そういうことだ。
震える左手を抑え、彼女の顔を見上げる。
「七海さん……俺はもう無理だ。終わりにしてくれ……」
彼女の落ちた視線が、タイル床に留まり続けた。小さな溜め息の後、続きの言葉が綴られた。
「分かったわ。でも、次の契約者を見つけるまでは……時間を頂戴」
次の契約者。どこかの誰かが、俺のようにナイフを持たされる。この負の連鎖は、苦しみや痛みは、千年間続き、これからも続くのだろうか。彼女はずっとそうやって生きていくのだろうか。
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