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「……暴力っていうと違うというか……」
「違わねぇよ。どれだけ取り繕ったところで本質は変わらない。この世の平和だって暴力で保たれている。暴力の均衡で、対話のテーブルが生まれ、お互いの妥協点を見つけている。ただそれだけに過ぎない。正義の根源は暴力だ。お前が好きなヒーロー番組だって、最後は暴力で解決だろう?」
「う……でも俺は……」
カウンターに視線を落とし、言葉を失った不動にアガシが笑った。
「すまん、冗談だ。お前が言う通りだよ。正義っては弱気を助け、悪を挫く者だ。だから……」
「だから?」
「簡単に折れるんじゃねぇ」
「そうっすね! 自信持ちます!」
アガシは肩にコートを掛けると、二人分の勘定を済ませて外に出た。夕暮れは闇に呑まれ、車のヘッドライトやネオンが輝いていた。
「御馳走様っす!」
満面の笑みで満足そうに店を出る不動を見て、アガシがほほ笑む。強面で通っているアガシ警部も、部下の前では笑った。だが、事件が絡んだ瞬間に笑みは消える。スマートフォンを耳に当てたアガシの表情が、徐々に曇っていった。その変化を見届けた不動の顔も強張っていく。
「事件っすか?」
「化け物を見たって通報が複数入ったらしい。しかも被害らしい被害はないって話だ」
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