二、アガシ警部

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「またですか。被害はないのに化け物が出たって何なんすかね。悪戯にしては通報の数が多いですし、接点もなさそうなんですよね。集団催眠か何かっすか?」 「……さあな。現場には俺が行く。お前は署で詳しい話を聞いておいてくれ」 「了解っす」  アガシは署に止めておいた車に乗り込むと、シートに深く腰掛け、ホルダーに突っ込んだブラックの缶コーヒーを飲み干した。険しい顔でエンジンを掛け、顎鬚を触る。鋭い眼光がフロントガラスの先を睨み続けた。 「七海カナタ。悪魔を一人で狩るたぁ大した腕じゃねぇか。無何有の鍵……か。あの女さえ手に入れれば……俺のこの最悪の運命も……」  アガシは抑えられない情念を吐き出すようにつぶやくと、険しい顔のままアクセルを踏み込んだ。  アガシは刑事になって五年、七海カナタという少女を追っていた。ある時は県外で目撃され、ある時には都心に痕跡を残し、またある時は国外に出没した。一か所に留まらず、動き続けてきた少女の情報がようやく一か所に集中しはじめた。しかも、この「渋谷」で。アガシにとって念願のチャンスだが、逃せば最後になるかもしれない機会を失うことにもなる。焦ってはいけない。そう何度も胸中に落とし続けた。     
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