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戸を開け、現れた少女は、確かに驚くほどの美人だった。透けるように白い肌、宝石のように大きな瞳、歩く度に揺れる艶やかな髪。どれをとっても非の打ちどころがなく、しかし、何故か生気を感じられない。言うなれば「造花」――そんな印象だ。
だが、俺が言葉を失ったのには、他にも理由がある。転校生が「見覚えのある」少女だったのだ。
「七海カナタです。よろしくお願いします」
「席は……そうだな、那須賀(なすが)の後ろが空いてるな」
「ぐあー! アキラ羨ましい!」
よりによって俺の後ろの席。クラス中の男子から羨望の眼差しを向けられるが、俺は表情を作る余裕さえない。だってそうだろう。これほど整った顔を、見間違う訳がない。
転校生は、昨日「目の前で自殺した少女」だった。
「放課後、屋上に来て」
すれ違いざまに放たれた囁き声。
その声は、彼女の見た目そのままがごとく、細く、儚げで。しかし、昨日の惨事を知っている者にとっては、ただただ不気味に響いた。
何の反応もできない俺を置き去りにして、彼女――七海カナタは椅子を引く。忘れようとしていた光景が――生々しい赤色が、再び脳裏に渦巻いた。
躍り狂う心臓を汗ばむ手のひらで抑え、記憶を辿る。そう――俺は昨日、飛び降り自殺した少女を見た。見上げたビルは空高く、確実に即死する高さだった。実際に「死んで」いた。
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